【速報】令和5年度税制改正大綱における電子帳簿保存法の電子取引データの電子データ保存に係る3つの負担軽減策について解説!

令和5年度の税制改正大綱が決定しました。防衛力強化をめぐる財源やNISA拡充、相続税・贈与税が話題を集める中で、電子帳簿保存法についても大きな変化がありました。本稿では今回の大綱で変更となった部分の中でも、すべての事業者に関係がある電子取引データの電子保存について解説していきます。

まずは電子帳簿保存法について勉強したいという方はこちらの記事もご覧ください。

https://dd.youcom.co.jp/2023%e5%b9%b45%e6%9c%88%e6%9c%80%e6%96%b0%e7%89%88%e9%9b%bb%e5%ad%90%e5%b8%b3%e7%b0%bf%e4%bf%9d%e5%ad%98%e6%b3%95%e3%81%ae3%e3%81%a4%e3%81%ae%e5%8c%ba%e5%88%86%e3%81%a8%e6%94%b9/

※本稿は令和5年度税制改正大綱を参考に記述しています。


POINT

検索要件のすべてが不要となる対象者の範囲が売上高5,000万円以下の事業者まで拡大!
誰が電子保存したかの情報を記録する必要がなくなった!
2024年1月までだった宥恕(ゆうじょ)措置が恒久化!

1.検索要件のすべてが不要となる対象者の範囲が拡大

電子帳簿保存法では、保存した書類に関して最低限「取引先名・取引金額・取引年月日」で検索できるように求められていますが、その検索要件がすべて不要となる対象者が以下のように変更されました。

イ 保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には検索要件の全てを不要とする措置について、対象者を次のとおりとする。
(イ)その判定期間における売上高が 5,000 万円以下(現行:1,000 万円以下)である保存義務者
(ロ)その電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている保存義務者

令和5年度与党税制改正大綱


要点を整理しますと、検索要件が不要となるのは以下の条件を満たす事業者です。

判定期間における売上高が5,000万円以下である事業者
保存した電子取引書類のデータの出力書面の提示または提出の求めに応じることができるようにしている事業者

検索要件が不要となる事業者の対象範囲が、売り上げが5,000万円以下の事業者に拡大されました。ただし、検索要件は不要になりましたが、電子取引データを取引先、取引年月日でフォルダ分けするなど、整理された状態で管理しておく必要はあります。

2.電磁的記録の保存を行う者等に関する情報の確認要件を廃止

ロ 電磁的記録の保存を行う者等に関する情報の確認要件を廃止する。

令和5年度与党税制改正大綱

電子取引データについて、誰が電子保存したかの情報を記録する必要がなくなりました。

3.宥恕(ゆうじょ)措置の恒久化

2023年12月まで認められていた宥恕措置が、2024年1月より先も認められることになりました。

※「宥恕」は、寛大な心で許すの意味

電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて相当の理由がある保存義務者に対する猶予措置として、申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長が当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認め、かつ、当該保存義務者が質問検査権に基づく当該電磁的記録のダウンロードの求め及び当該電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする。

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録について適用する。

令和5年度与党税制改正大綱

令和4年度の税制改正大綱の宥恕措置(令和5年12月31日までの宥恕措置)とほとんど同じ内容であり、なおかつ宥恕終了日時に関する記述はありません。つまり、令和6年(2024年)1月より完全義務化となる予定であった電子取引データの電子保存について、その宥恕措置を恒久的に認めるということになります。

言うなれば、所轄税務署長が認めるような「相当の理由」があれば、電子取引データの電子保存には対応できていなくても良いということになりました。

ただ、この「相当の理由」について、政府から具体的な事例は示されていません。また、売り上げが〇万円以下の事業者は…のような明確な基準も設けられていません。

(2023年8月10日追記)
今年6月に公表された電子帳簿保存法についての一問一答において、”相当の理由”について少し具体的な内容が示されました。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

また、「当該保存義務者が質問検査権に基づく当該電磁的記録のダウンロードの求め及び当該電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合」という記述があるため、

税務調査の際に、電子データを渡せる状態で保存している事
紙にも印刷して、印刷したものをこれまでと同様に保存している事

以上の2点が求められます。電子取引データの電子保存の法要件を満たしていない場合でも、電子取引データについて整理整頓して管理しておく必要はあると考えられます。

どれくらいの規模の事業者で、どれほどの理由が認められるかは現状不明ではありますが、少なくとも、検索要件が不要となる売り上げ5,000万円のラインよりも売り上げが大きな企業については、相当な理由が認められる可能性が低いと予想されます。現状、宥恕期間は無限になりましたが、早めに対応しておくことをおすすめします。

4.まとめ

本稿では、令和5年度税制改正大綱による電子帳簿保存法の電子取引データの電子保存における3つの変更点を解説しました。

売上高が5,000万円以下である事業者で、保存した電子取引書類のデータの出力書面の提示または提出の求めに応じることができるようにしている事業者は、検索要件のすべてが不要になる。
電子取引データについて、誰が電子保存したかの情報を記録する必要がなくなった。
所轄税務署長が認めるような「相当の理由」がある事業者については、2024年1月以降も電子取引データの電子保存には対応できていなくても良い。

政府としては国内企業のDXを推進したいという意図で、電子帳簿保存法の電子取引データの電子保存を義務化するよう法改正を行いました。しかし、電子帳簿保存法の認知度が上がらないこと、2023年10月からインボイス制度が始まることによる混乱を避ける等の要因から、電子取引データの電子保存については猶予期間を引き延ばし、企業の対応を先送りにするような対応になってしまったと考えられます。

今回の税制改正大綱では、電子取引データの電子保存について、「相当の理由」が認められる事業者については、対応義務がなくなったことにはなります。

しかし、宥恕されるのは「相当の理由」があると認められる場合とのことで、「相当の理由」が認められないであろう企業は、2024年1月までに電子取引データの電子保存に対応することが求められます。

「相当の理由」の基準が曖昧な現状では、対応の必要がない事業者を断定することはできません。

電子帳簿保存法の対応を本格的に始める前に、まずは電子帳簿保存法について知り、対応のコツを抑えておきましょう。また、対応が不要となる事業主でも、法要件を満たす必要はありませんが、電子取引データを電子データのまま保管する必要はあります。

「どういった書類を保管しなければならないのか?」
「どうやって保管するデータを管理するのか?」

電子取引データを保管するにあたって、そういった疑問が出てくると考えられます。それらの疑問を解決するには、電子帳簿保存法に対応する方法を参考にするのが一番の近道でしょう。

特に、令和5年度税制改正大綱で初めて電子帳簿保存法を知ったという方は、これを機に一度電子帳簿保存法について理解を深めておきましょう。

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